【第131回】茅葺に息づく知恵と未来へのヒント

由利本荘市三ツ方森にて30年ぶりの茅刈り復活(2024年12月)

かつて人々の暮らす集落には、ススキやヨシを葺いた「茅葺(かやぶき)」屋根が連なり、季節の風景を形づくっていました。茅は身近な草原で刈り取り、葺き替えは地域の人々が協力して行う共同作業。自然の恵みを活かし、支え合いながら暮らす地域の知恵が息づいていました。

時代の変化とともに茅葺の家は減りましたが、近年その価値が再評価されています。茅は再生が早く、環境にやさしい素材であるだけでなく、茅を育てる草原(茅場)を適切に管理することが、二酸化炭素の吸収や貯留に貢献し、気候変動の緩和にもつながることが分かってきました。

さらに、茅場の草原には多様な植物や昆虫が生息し、地域の生物多様性を支える大切な場所でもあります。茅葺文化は、地域の自然環境を守りながら、持続可能な社会づくりに寄与する仕組みでもあるのです。

また、茅葺や茅を刈り取る技術・習慣は、ユネスコの無形文化遺産にも登録※され、世界的にも見直されています。鳥海山・飛島ジオパークでは、こうした文化と自然の関わりを「地球と人のつながり」として伝えています。

茅葺の屋根が語るのは、かつての暮らしだけではなく、自然と共に生きる未来へのヒントかもしれません。

※「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」

一般社団法人鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 研究員 長船裕紀
【文・写真】

一般社団法人鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 研究員 長船裕紀