【第112回】生物多様性の危機=私たちの日常生活の危機

2024年5月1日

図:生物多様性の回復イメージ 出典:Locke et al.(2021)をもとに作図
 

生物多様性の高い自然環境(豊かな生態系)には人々の役に立つ働きがたくさんあります。経済的発展はおろか私たちの日常生活でさえ、生物多様性のもたらす自然の恵みなくして成り立ちません。例を挙げてみましょう。

いつも口にする食べ物。例えば農作物では、豊かな土づくりや実を結ぶための受粉に生物の存在は欠かせません。健康とも関係し、生物の遺伝子や生化学的な特性は、医薬品開発に大きく貢献します。病気の新たな治療法のカギは、絶滅危惧種が握っているかもしれないのです。また、心身の健康に自然の中でのリラックスが重要であることも科学的に示されています。

生物が生きていくために必要な湿地や森林などには水を浄化したり気候を穏やかにしたりする働きがあります。近年脅威を増す自然災害に備えて、健全な自然環境を保つことは私たちの安全な暮らしを守ることにもつながるのです(例:放棄人工林は土砂災害リスクが高い)。

自然の美しさや多様性は、観光やアウトドア活動を楽しむ場所としても不可欠です(地域の経済が潤うことも!)。

長い間、経済の発展と生物多様性の保全は両立しないものと考えられてきましたが、生物多様性の損失が人類の衰退につながることが明らかになってきました。今後私たちは、その損失を防ぐだけでは不十分で、「失われた生物多様性の回復」に目を向けていかなければならないのです。



一般社団法人鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 研究員 長船裕紀

【文・写真】
一般社団法人鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 研究員 長船裕紀

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