【第59回】清流のサケと海洋環境
2019年11月1日
鳥海山の紅葉が深まる頃、遊佐町の月光川水系やにかほ市の川袋川など山麓の河川ではサケ漁が始まります。サケ漁といっても河川で行われているのは、遡上するサケを捕獲して採卵・ふ化・放流する「ふ化放流事業」が主な目的です。これは、海洋資源の持続性を維持するために明治時代から行われているものです。
鳥海山麓の河川に遡上するのはシロザケです。ふ化場で育てられたサケの稚魚は海の水温が温かくなった三月に放流されます。海に出た稚魚はオホーツク海、北大西洋、べーリング海、アラスカ湾などの北洋で過ごし、およそ四年後に生まれた河川に帰ってきます。約一万キロにもおよぶ長旅です。
サケが生まれた川に帰ってくる確率は3%前後ですが、近年は全国的に回帰率が下がっています。その理由のひとつに温暖化による海水面温度の上昇が指摘されています。気象庁によると2016年までの約100年間にわたる日本近海の平均海水面水温は1.09度上昇しています。とくに日本海海域では約1.7度上昇し、これは世界平均の0.53度を大きく上回ります。海水温の上昇はサケをはじめとする魚類の生息域や回遊ルートに大きく影響します。サケの回帰率低下には海洋環境の変化に加え複合的な要因が考えられますが、そのメカニズムはまだ明らかにされていません。
鳥海山麓の清流はサケを通じて大海とつながっています。身近な川やそこに棲む生きものは、地球の未来を考える手がかりになりますね。
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【文・写真】
鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 専任研究員 岸本 誠司氏