【第34回】湧水の川に回帰するサケ
2017年10月1日
庄内平野の北部を流れる月光川と日向川は、ともに鳥海山を源とする良質で豊富な湧水に恵まれた川です。かつては、イトヨ(3月頃)、シラウオ(5月頃)、ゴリ(6月頃)、スズキ(6月から9月頃)などの魚が産卵のためにこの川をのぼってきました。現在、川を遡上する魚のなかで「王者」といえるのがサケです。
毎年10月から2月にかけて、月光川水系の牛渡川(遊佐町)ではたくさんのサケ(シロザケ)が遡上します。牛渡川は鳥海山から噴出した溶岩の末端崖にそって流れる全長約3kmの小さな河川ですが、水源のほぼすべてが湧き水です。水温は年間を通じて10℃前後、平時の流量は毎分24トンともいわれ、多少の雨水が混入しても濁ることはありません。
明治時代よりこの豊かな湧き水を利用した人工ふ化事業が始まりました。現在では毎年数万尾のサケが遡上し、シーズン中はサケ漁の見学も可能です。近くの小山崎遺跡(縄文前期〜晩期)からは、サケ叩き棒と思われる木製品も出土しています。牛渡川では数千年もの長きにわたって人と生き物の交渉が続いているのですね。
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【文・写真】
鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 専任研究員 岸本 誠司氏