【第118回】地方政府を移転させた地震-嘉祥三年出羽地震
2024年11月1日
※鳥海山・飛島ジオパークの文化サイトの一つ・城輪柵跡。嘉祥三年出羽地震が発生する前は、ここが地方政府の中心でした。
鳥海山・飛島ジオパークのエリアでは、過去に何度も強い地震が起きています。記録に残るもっとも古い歴史地震は、西暦850(嘉祥三)年11月27日(新暦)に発生した「嘉祥三年出羽地震(以降、出羽地震)」です。出羽地震の震央(地震が発生した場所の真上の地表点)は、最上川の河口から北西の沖合約5kmの海底で、地震の規模を示すマグニチュードは7.0と推定されています。
日本書紀や日本後紀などの国の歴史をまとめた歴史書「六国史(りっこくし)」の一つ・「日本三大実録」の中に、出羽地震に関する記述があります。それによると、出羽地震の際には川の堤防の破壊(大川崩壊)や、海面の上昇(海水漲移)が生じ、海水が国府*の六里の所まで迫った(迫府六里處)と書かれています。この海水の侵入が津波によるものなのか、それとも地盤の沈降によるものなのかについては、専門家の中でも意見が分かれていますが、この地震が政治の中心地を城輪柵(きのわのさく)から八森(はちもり)遺跡付近に移転させるきっかけになったのは確かです。
歴史書は、約1200年前にこの地域のどこでどのような被害が起きたのかを伝える、重要な資料です。先人達の貴重な記録を、今後の防災に役立てていきましょう。
*国府・・・中央から国司が派遣されて地方行政を行っていた地方政府のこと。
—
【文・写真】
一般社団法人鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 次長兼主任研究員 大野希一