【第111回】山体崩壊がもたらす恵み
2024年4月1日
※山体崩壊がもたらす流れ山地形。小高い丘が点在する景観は、国内外で景勝地となっています。
鳥海山は約60万年前から活動を継続していますが、その山体は時々大きく崩れます。「山体崩壊」と呼ばれるこの現象は、地下からマグマが入り込んだり、マグマの熱で地下水が加熱されておこる水蒸気噴火、また強い地震や大雨などが原因で生じますが、鳥海山の場合、その原因は必ずしも特定されていません。山体崩壊は大量の土砂を一気に麓に流すため、ひとたび発生すれば甚大な災害が生じることが予想されます。しかし過去の山体崩壊がつくった地形は、私たちに多くの恵みを与えています。
鳥海山の北麓に位置する由利原高原は、鳥海山の山体崩壊に伴う土砂が地面の起伏を埋め立ててつくった平坦面です。夏でも冷涼な気候は酪農に適しており、そこで生産される上質の牛乳が、アイスクリームやプリンなどの原料になっています。また、約2500年前に起きた鳥海山の山体崩壊は、海に多くの小島が点在する景勝地や、人が住むのに適した扇状地をつくりました。それらは古くから観光地として利用され、また今も多くの人の生活の場となっています。
今、私たちが暮らしている地面や目にする景色は、災害をもたらすような過去の自然の営みがつくったものかもしれません。
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【文・写真】
一般社団法人鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 次長兼主任研究員 大野希一