【第133回】冬の水辺に、白がほどけるとき

最上川河口鳥獣保護区(スワンパーク)にて 2025年2月(酒田市)

冬の朝、まだ空気が青く沈んでいる時間帯、ハクチョウのねぐらとなる水辺は最も美しい表情を見せます。冷えた空気が肌にやわらかくまとわりつき、靄の向こうから艶めかしい白が静かに浮かび上がる。

日の出を迎えると、白はほどけるように田んぼへ飛び立ちます。水面をすべる羽音、胸の奥まで冷やす吐息――その気配が、見る者の感覚をゆっくり目覚めさせます。

北から渡ってきた彼らは、日中は水田で稲刈り後に残った落ち籾(米)をついばみます。長い首を水と泥に差し入れ、籾を選り分ける仕草は、静かな執念すら帯びる。夕暮れにはふたたび水辺へ戻り、白い影を寄せ合って夜を越します。冬の田んぼは、ただの空き地ではなく、命をつなぐ食卓なのです。

この食卓を整えているのは、田を守り、水路を手入れし、収穫のあとも土を休ませる人の営み。そしてそれを支えるのが、大地と水の長い循環です。鳥海山が受け止めた雪は湧水や川となって田を潤し、日本海へ還る。海で立ちのぼった水は雲となり、また山に雪を降らせます。 ジオパークは、地形や岩石だけでなく、その巡りの中で育つ暮らしの手触りを伝えることでもあります。この冬、ハクチョウに出会ったなら、美しさの奥にある静かな成熟にも、そっと思いを重ねてみてください。

月光川河口の吹浦駅近傍にて 2025年2月(遊佐町)

黒潟(院内)にて 2026年1月(にかほ市)

大堤ため池(薬師堂水林)にて 2025年2月(由利本荘市)

一般社団法人鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 研究員 長船裕紀
【文・写真】

一般社団法人鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 研究員 長船裕紀