【第68回】雪は豊年の瑞
2020年8月1日
皆さんは、“雪は豊年の瑞(しるし)”という言葉をご存知でしょうか。“瑞”とは、前兆や前触れを意味します。この言葉は、農業、特に稲作には多くの水を必要としますが、雪の多い年には雪解け水が豊富なため、豊作が期待されることを意味します。雪は天然のダムとも呼ばれ、農業に限らず私たちの生活に大きく関わります。多くの積雪のある鳥海山周辺地域に暮らす皆さんにとっては、実感の湧く言葉ではないかと思います。
ところが気象庁によると、2020年冬(2019年12月~2020年2月)は、日本では統計開始以降で最も気温の高い記録的な暖冬となりました。これには様々な要因が関係しており、地球温暖化もその1つと考えられています。この暖冬の影響により、鳥海山周辺地域においても、2020年冬の累積降雪量や最深積雪深の平年比*は60%以下となりました。一方、2020年2月から4月には平年以上の降水が観測されており、融雪が促進されたと考えられます。これらのことから、稲作や暮らしへの影響が懸念されます。
降雪量や積雪量の減少は、私たちの暮らしにおいて便利な点がありますが、農業や生活用水の確保という点からは問題となり得ます。夏の暑い時期に、“雪は豊年の瑞”という言葉から、雪が私たちにもたらしてくれる恩恵に思いを馳せるのも一興でしょう。
*1981年~2010年の30年平均値に対する比率
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【文・写真】
秋田大学教育文化学部 教授 林 武司 氏