【第40回】環鳥海山とクマタカの環
2018年4月1日
林の中で、時には枝と枝をフワッと浮いて飛び移り、時には木々の間を巧みにすり抜けていく。まるで忍者のごとく機敏に動き、ヤマドリ、ヘビ類、ノウサギなどを捕食するクマタカ。森林生態系の頂点に位置し、つがいで生活するには広大な面積を必要とします。クマタカを保全することは、その地域全体の自然環境を包括的に保全する効力となり、生物多様性保全の観点からも重要です。クマタカの存在は、その地域に豊かな自然環境が残されていることを示す指標となっているのです。
クマタカは「深山幽谷の鳥」といわれることもあり、一般的には身近な鳥ではありません。さて鳥海山ではどうでしょうか。実は山間部のみならず、広い裾野にまでクマタカが生息しており、なんと標高100mに満たない場所にも現れます。そこはもはや深山幽谷ではなく里山です。人々の営みの中にクマタカがひっそりと生活しているのです。鳥海山の標高の高い山間部から低地に至る里山は、クマタカが生息するベルト状の「環」となっているのです。つまり、鳥海山には、裾野に広がる里山も含め、クマタカにとって豊かな環境が残されているのかもしれません。
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【文・写真】
鳥海南麓自然保護官事務所 長船 裕紀氏