【第67回】白井新田の湿地群とハッチョウトンボ

2020年7月1日

遊佐町の白井新田あたりの表層は、鳥海山の豊かな降水が運んできた様々な大きさの礫が堆積してできています。そして底には水を通しにくい層があると推測されます。この堆積物の層は水を湛え、南麓にはめずらしく湿地が点在しています。

多くの湿地は、戦後の高度成長期に開発され、湿地の動植物は生息地を失いました。遊佐町でもハッチョウトンボは絶滅したとされていましたが、戦時中に石油の試掘をした跡地に浸み出した地下水がつくった湿地で、かろうじて生き残っているのを1973年に遊佐小学校の先生たちが確認しました。湿地は、繊細な印象のイトトンボ、羽音をたて電池じかけで動いているかのようなヤンマ、イモリにモリアオガエル、さながらサンクチュアリ(聖域)のようです。食虫植物のモウセンゴケにハッチョウトンボが捉えられる姿など、ありのままの自然が垣間見える場でもあります。

しかし、ここは浸み出してくる地下水だけでは乾き気味で、温水溜池から水を引き、陸地化を防ぐための草刈りもしています。保全活動は、どのように手をかけるのがよいのか模索が続きます。

湿地群の中の石油試掘後のこの湿地は、土地の成り立ちと生き物とわたしたち人間の歴史と生活がリンクしていることを示しているようです。



遊佐町文化財保護審議会委員 菅原 善子 氏

【文・写真】
遊佐町文化財保護審議会委員 菅原 善子 氏

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