【第73回】列島から山国へ

2021年1月1日

日本列島は世界有数の山国です。そして、東北地方の奥羽山脈は全長が500 kmの大山脈です。その太平洋側には北上山地や阿武隈山地が、日本海側には白神山地や出羽山地、朝日山地や飯豊山地、そして越後山地が連なっています。これらの山々は人々の生活に多くの恵みを与え、自然に対する畏敬の気持ちや豊かな自然観を育んできました。日本人の美意識や文化など、精神世界を彩り豊かにしてきた東北地方の大地形は、実は遠く離れたフィリピン海プレートの運動によって作られています。

地球の表面を移動するプレートは、速いものでも一年間で10 cm程度です。そして、フィリピン海プレートの運動によって引き起こされる日本海溝の移動速度は、わずか1 cmほどです。そのようなゆっくりした運動でも、300万年あれば東北地方は30 kmも東西に押しつぶされてしまいます。押しつぶされた分は上に押し上げられ、大地が隆起して山ができるのです。隆起した山は川によって侵食され、変化に富んだ絶景を作ります。豊かな森林も清らかな清流も、すべては地球のダイナミックな営みから生み出されているのです。想像できないスケールですが、ときには自然の目線で周囲を見渡せば、何気ない景色が別世界に見えるでしょう。ジオパークとは、気がつかずに通り過ぎていた世界があることを、この地を訪れた人々に気づいてもらう入り口なのでしょうね。



産業技術総合研究所 地質調査総合センター 上級主任研究員 高橋雅紀 氏

【文・写真】
産業技術総合研究所 地質調査総合センター 上級主任研究員 高橋雅紀 氏

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