【第107回】ハタハタとジオ
2023年12月1日
※冬の名物・ハタハタ
12月から1月にかけて、産卵のために海岸近くに上がって来る魚がいます。ハタハタです。漢字で「鰰」または「鱩」と書くハタハタは稲光の古語で、海が荒れて雷がとどろくような悪天候の時に獲れることから、この呼び名が付いたとされています。小骨が少なく鱗もないことから調理しやすく、塩焼きの他、煮つけ、しょっつる鍋の他、たっぷりのお湯で煮たハタハタを大根おろしやショウガなどで食べる“湯上げ”もあります。特に、おなかに卵(ブリコ)を抱えたハタハタは冬の名物として珍重されています。
秋田・山形だけでなく、北海道や兵庫、鳥取でもハタハタが獲れるのは、日本海があるからです。南は対馬海峡、北は津軽、宗谷、間宮などの海峡に隔てられている日本海の平均水深は約1,700m、最も深い場所は3,742mで、富士山がほぼ完全に水没してしまいます。海水がほとんど循環しないので、日本海の底はハタハタが好む冷たい海水で充たされています。また、特に北陸から東北にかけては、日本海は陸から離れるとすぐに水深が深くなります。そのため、普段は深くて冷たい海に暮らすハタハタが、産卵のためにすぐに浅瀬に移動することができるのです。
ハタハタを育む日本海は、1500万年前の大地の動きがつくった海です。一時期は漁獲量が激減し、3年間禁漁したこともあるハタハタは、ダイナミックな大地の動きがなければ味わうことができない、冬の恵みです。
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【文・写真】
一般社団法人鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会 次長兼主任研究員 大野希一