【第82回】鳥海山矢島口5合目祓川の低温湧水
2021年10月1日
鳥海山の北側、矢島口5合目の祓川神社前に湧水があります。この湧水は、鳥海山のステージⅢ(約2万年前以降)に噴火した七高山溶岩の末端の崖下から湧き出ており、ジオサイトである竜ヶ原湿原の形成要因の一つになったと考えられています。
令和2年8月~10月の3ヵ月間(雪渓が無くなる時期)、湧水の水温を温度記録計で1時間間隔で測定した結果、降雨時には10℃前後に上がりますが、それ以外の時間はほぼ4℃前後(3.6~4.2℃)で、気温の変化とは関係なく盛夏でも低温であることが分かりました。盛夏における湧水の水温について、文献や資料を調べてみると、4℃前後という低温は、日本ではこれまで浅間山の鬼押出し溶岩末端の湧水群から得られているデータ(ほぼ3℃前後)以外は見当たりません。(ちなみに、にかほ市の獅子ヶ鼻湿原の湧水の水温は7℃前後です。)
実は祓川の湧水の出口は、かつて「由留義の壺」(ゆるぎのつぼ)といわれ、信仰の山であった鳥海山に登る修験者や参拝者たちが心身の汚れを洗い落とし身を清めた「垢離(こり)の池」の水源にもなっています。修験者や参拝者たちが4℃前後の冷水で身を清め、登山口から険しい山道を登ったことを想像すると、改めて鳥海山の水環境と歴史・文化の関係について考えさせられます。
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【文・写真】
秋田地学教育学会 板垣直俊氏