【第61回】ユネスコ無形文化遺産
来訪神-仮面仮装の神々「遊佐のアマハゲ」ー
2020年1月1日
アマハゲは年の初めという時を定めて、異界から畏怖すべき恐ろしい姿で訪れ、村や家々の災厄をはらい福をもたらす神霊です。言い換えれば、来訪がないと1年間にたまった日常の厄をはらってもらえませんし、新年の福がもたらされることもないということになってしまいます。
アマハゲは仏教や神道など宗教的な神格や位置づけのない、言うなれば庶民の神様です。いつごろどのようにして始まったのかはよくわかっていません。来訪神の最も古い記録は、菅江真澄の「牡鹿乃寒かぜ」(1811年)に出てくるナマハゲです。文献ではここまでしかさかのぼれません。民俗学者の戸川安章氏(1906-2006)は昭和30年代の調査時は子どもに訓戒を垂れるアマハゲの姿はなかったが、昭和50年代にはこれを盛んに行う姿があったと述べています。これは時代の流れの中で移り変わってきたことの現れと思います。鳥追い(※)やホンデ焼きとの一連の行事であることを考えると、教育的効果というより人の力ではどうしようもない災厄を取り除いて平穏な暮らしを営めるようにしてくれるのがアマハゲ本来の機能といえそうです。
鳥海山麓には来訪神行事のほかに杉沢比山や小滝のチョウクライロ舞など多くの民俗芸能や年中行事が伝えられています。それは鳥海山の自然とともにあり、天恵と天災を受け止めてきた人々の暮らしの反映であるように思えます。
(※)害鳥を追い払う「鳥追い」、門松などを焼く「ホンデ焼き」とアマハゲで一連の子正月行事
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【文・写真】
遊佐町文化財保護審議会委員 菅原 善子 氏